会社で恋しちゃダメですか?


「そっか」
朋生は微妙な顔で頷くと、給湯室から出て行く。園子はどんな言葉をかけたらよいか分からず、その背中をじっと見つめるしかなかった。


シンクに手をついて、大きな溜息をつく。髪をかきあげて、顔をおおった。誰かが傷つくのは見たくない。でもこの場合、どうしたらいいんだろう。


「池山さん、大丈夫?」
給湯室の入り口から声がかかって、巡り続ける思考の輪からはっと抜け出した。


「部長……大丈夫です。今コーヒーつくって行きますから」
園子は急いでコーヒーの支度を始めた。


山科が一歩給湯室の中へと足を踏み入れる。園子は目を合わせないよう、うつむいて支度に没頭している振りを見せた。


ほんのすぐ近くに、山科の気配がある。山科に近い自分の右後ろを、激しく意識してしまっていた。なんでだろう。今までだって、こんな風に近くで話したこともあったし、二人きりだったこともたくさんあったのに。


「この間は悪かったね」
「いいえ、大丈夫です。あ、あの……ドレス、お返しします」
「いいよ」
「でも、ツケにしたって、とてもわたしには払えませんから。他のどなたかに、お譲りになってください」

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