海賊王女と無敵な人魚の王子さま

 それは、夕食を終え、眠るまでの空き時間でのことだった。

 
 巨大な岩を幾つも積み上げられて作られた、塔の一室。


 広々とした、わたしの私室に『そのひと』は、黒い鳥の仮面をつけ。


 フードを深々と被った黒マントの姿で現れた。


 一緒に部屋に入って来た蒼い甲冑のジーヴルや、中年を過ぎた近衛騎士団の団長よりも、二回りほど小柄で細いみたい。


 また、カラダ全部を覆う、マントを身につけていても、なお。


 歩き方は、まるで体重が無い人みたいに軽く。


 その人が、かなり手練(てだれ)の魔法使いか、もしくは、恐ろしいほど修行を積んだ武芸者かに見えるんだけども。


 そんなヒト、今まで、わたしの周りにはいなかった。


 だから、これは不吉な予感。


 嫌だな、と思うわたしの心を知ってか知らずか。


 三人は、フロンティエールの作法に則り。


 部屋の中ほどまで歩いて来ると、わたしの居る毛足の長い絨毯には乗らず。


 跪(ひざまづ)いて、静かに頭を下げた。
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