海賊王女と無敵な人魚の王子さま
 わたしが声をかけなければ、多分。


 一晩中でも、彫像のように微動だにしないだろう。


 生まれた時から、いつも『話し相手』の一人、とか。


 最近は護衛として側に居ることが多いジーヴルは、わたしが堅苦しいコトが好きじゃないって良く知ってる。


 特に、手をうんと伸ばしても、相手に触れることもできない距離感が大嫌いだったから。


 何かの行事がない限り、私室では普段。


 兵士、侍従に至るまで、顔見知りの者については。


 もそっとずずずぃーーと、わたしに近づいて、用があるなら勝手に話しかけて来てもいいことになっていた。


 なのに。


 フロンティエール騎士の中で、一番親しいはずのジーヴルが、いちいち作法に従ってわたしに近寄らず。


 遠くから黙って頭を下げているのは、自分の父である近衛騎士団団長がすぐそばに居るから、だけじゃない。


 『コレ』が正式な使者だってことの証だった。


 もう、なんだか話を聞く前から、気が重い。


 暖炉の前の揺り椅子に座っていたわたしは、読んでいた本を閉じて、私室に押しかけて来た、夜の訪問者を見た。


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