殺人ごっこ
そしてすぐにナイフを振り下ろせれば、どんなに楽だろう。


手が、動かない。

震えてしまっているのだ。


そりゃそうだ。

だって人殺しなんてしたことない、するとも思っていなかった。


「っ……動け、動けよっ!」


小さく怒鳴る。

だが僕の手は、喉元を掠ることさえ出来なかった。


「役立たず……」


ベッドの上に座る。

健太君はまだ綺麗な寝顔で寝ているし、きっと親も隣の寝室とかで寝ているんだろうな。

健太君はいいな。

お金があって、権力があって、力も強くて、親も優しくて。

きっと健太君はシアワセなんだろうな。


そして僕みたいにグズグズしないで、すぐに人を殺せるんだろうな。


それに比べて僕は何だ?

家は貧乏だし、パシリだし、腕相撲で女の子にも勝ったことはなくて、親は僕を信じていないし。


そして憎い君も殺せやしない。


なんて惨めなんだ、ちっぽけなんだ。

僕は勇気も、ないのかよ。
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