カムフラージュの恋人
『いい?あなたたちは、“ディー”という、高級ブランドの化粧品という道具を通して、お客様に夢を売ってるの!まずはその自覚と誇りを持つこと!最終的には“あなたというブランドからこれを買いたい”と言われる女になりなさい!』

高卒で高級化粧品ブランド“ディー”の販売員になって、初めての研修の時、この言葉を聞いた私は、全身がしびれるほどの深い衝撃を受けた。
その言葉を言ってくれた田中陽子さんは、カリスマと呼ばれる“ディー”の化粧品販売員で、売上成績は常にトップ、“カリスマ美人美容部員”として、何度か雑誌にも載ったことがあるお方だった。

残念ながら、田中さんとは、同じ売り場になることは一度もないまま、寿退社をされてしまったけど、田中さんが退職をされて6年経った今でも、師匠が打ち立てた数々の売上記録は破られておらず、いまだに“ディー”の伝説的なカリスマ美容部員として、その接客の仕方や、数多くの名言は、研修時や、他愛のない販売員同士の世間話等で、語り継がれている。

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