カムフラージュの恋人
他にお待ちいただいているお客様もいなかったので、私は樋口さんが見えなくなるまで見送ると、後片づけをし始めた。
今日は、樋口さんが最後のお客様になったようだ。

「今日は樋口さんのおかげで、最後に客単価がドーンと跳ね上がったねー」
「ホントあの人、気前良くなったよねぇ」
「だってー。ほら、彼女のお気にちゃんがここにいるからー」
「わ、わたし?ですか?」と疑問形で聞きながら、私は自分で自分の顎に、人さし指を当てていた。

「きよいちゃんの他に誰がいるのよ」
「そーよ。ご指名受けてるのは林ちゃんしかいないでしょ」
「まぁ、そうですね」
「なんかさー、最初はクレームマニアが新たなターゲット見つけた!あーあー、きよいちゃん、来て早々かわいそーって思ってたんだけどー」

なーんて気の毒そうな声で言ってるけど、実のところは私に樋口さんを押しつけてたよね?香川センパイ・・・。

「あの人・・樋口さんは、誰かに話したくて、聞いてほしい、それだけだと思います。人ってみんな、基本的に寂しがり屋じゃないですか?」
「そーお?」
「そうです。だから私は、お客様が買いにきたものだけをお売りするんじゃなくて、夢も一緒にお売りしてるんです」

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