もう、きっと君と恋は始まっていた





『……由樹君って…意外とそういうことするんだね…』



私はポツリと、由樹君にも聞こえる声で、そう言った。





『意外?
 知佳の中で、俺って“聖人君子”な男なの?』



由樹君は私に意地悪な顔をして問いかける。


男の子って…コロコロと変わる。





『………聖人君子?』




『非の打ち所のない性格で、知識や教養に優れた人のこと』




それって…結構、自分のことを褒めてるよね?




『由樹君は…聖人君子ってう感じじゃないかも…』




『ふーん、じゃ、何?』


『由樹君は……』





由樹君は一途な人。


奈々のことをいつも想ってて、由樹君のその姿勢が、奈々への姿勢が、いつも私の想いを弾いていく。






『何?』



『由樹君は…本当にバカな人、かな』


私の言葉に由樹君の顔が変わる。




『なんで、バカなの?』



『…私の知ってる由樹君は、最初から奈々のことだけを想ってる人だった。
 奈々を心配して、奈々を想う人で。
 だから、やっぱりこんなことに加担してる由樹君はバカだなーって思っ』


そこまで言ったところで、由樹君は私の唇に、自分の左手の人差し指を縦にして当ててきた。




『知佳、俺は、最初から奈々のことだけじゃなかったよ?』



思いがけない由樹君の行動に、由樹君の言葉に、私は由樹君を見つめるだけしか出来なかった。





『何も知らないのは知佳、知佳だけだよ?』



見つめてる由樹君は、そう言葉にする。



でも、その言葉の意味が私には分からなくて。






『まぁ、いいや。
 今から映画見に行こう』


由樹君はそう言って、いつもの顔に戻った。


そして私の唇に当てていた指も離して、私に背を向ける。






『知佳?』


私は由樹君の言葉に、由樹君の隣に並ぶ。





由樹君、さっきの、あの言葉、どういう意味…?








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