もう、きっと君と恋は始まっていた





『奈々……顔をあげて…?』



気がつけば、私の目からも涙が溢れていた。




『…ごめん……ごめんね、知佳……』


奈々の謝罪はそれでも終わらなかった。






違う、違うよ、奈々?


私がいけないんだよ…。


私がもっと、あの頃の私がもっと、みんなの想いに敏感だったら良かったんだ。



奈々の想いに気付いてあげてれば、あの時はなんとも思ってなかった崇人との恋を応援出来たかもしれない。


そしたら奈々は由樹君と付き合わずに、崇人のことだけを想っていられたかもしれないのに。



そしたら、由樹君は奈々が泣いてる姿を見ずに、そのまま私のことを好きでいてくれてたかもしれない…。



そしたら…






こんなことになってしまったのは。


こんなことになって、みんなの想いを揺さぶったのは…


私、だ。





でも、由樹君も奈々も勘違いしている。





『奈々、崇人は奈々のことが好きだったんだよ?
 だから崇人と私はいつも、奈々と由樹君が付き合ったあの日から、励まし合ってたんだよ…?』



私の言葉に、奈々はその可愛い顔をぐちゃぐちゃにさせて、綺麗な涙を流した。






『…嘘…だよ……そんなの………』




『本当だよ、奈々。
 だって、私、奈々が由樹君と付き合ってる間も、崇人から奈々のことを忘れたいって何度も言われてて。
 また崇人が奈々と付き合うようになって、私は由樹君と、自分と奈々で幸せになろうな、って言われたんだよ?
 だから、崇人は、あの頃も、今も、ずっと奈々を想ってるんだよ?』







どうして、私はこんなことを言ってしまったんだろう…



目の前の奈々は、私の言葉に涙を流している。


これが事実、奈々に言った言葉は全部事実だ。


でも、もう言えない…。



私も、“崇人のことが好き”、だなんて…。















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