杉下家、姉弟の平和な日常

「由梨絵さんおかえりなさーい」

「お、おかえり」

悪巧みをしているような底知れない笑顔の姉に俺は恐る恐る笑顔を返す。

「今のところまで頼んだものは会計しておいたから、あと二人で好きにして。先帰るね」

全部を言い終わらないうちに姉は背を向けて立ち去ってしまう。

最後に見えた姉の顔は間違いなく、笑顔が剥がれて泣きそうだった。

「え、ちょっと」

立ち上がってはみたものの、テーブルの下でこっそり手を繋いでいたケイコの指が滑り落ちる。

「あ・・・」

「お姉さんかっこいい。男だったら間違いなく惚れる」

空いた両手を組んで尊敬の眼差しで姉を目で追っているケイコを複雑な思いで見下ろす。

姉は男女問わず、ファンが多い。

ケイコまで取り込まれてしまうのは癪だが、今それをどうこうする時間はない。

「ケイコ悪い、姉ちゃん思ってたよりだいぶ参ってるみたいだからちょっと回収してくる。今度はちゃんと二人で会おう?ごめんな」

ケイコの頭を軽くひと撫でし、荷物を適当に掴んで走り出す。

時間にして1分は経ってないはずだ。

全速力で走って逃げなければすぐに見つかる。

ただでさえトラブルを引き寄せやすい体質なのだ。

気がつくとたんまりティッシュをもらっていたり、勧誘とか客引きに捕まっている。

「・・・さぁ、・・ちと一緒に行こう・・・・」

「結構よ。道を開けて」

姉の声はよく通る。

声の方に駆け寄ると妙に集まっている男の間に、姉の怒った顔が見えて男たちの間に急いで割って入る。

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