キミじゃなきゃダメなんだ
「ありがとうねえ」
「いえいえ。あ、今動くのは危ないんで、次の駅で止まったときにしましょ」
「そうだねえ」
他の人に座られやしないかと思ったけど、周りのひともふたりのやりとりに気づいているのか、誰も動かなかった。
百合がこのとき、そのことも見越して動いていたことを、僕はまだ気づかなかったんだけど。
珍しい高校生がいるものだと、ちょっと感心した。その日はそれだけだった。
それから時折、電車内で百合を見かけた。
普段は三人組で、楽しそうに喋っている。
とりあえずいつも楽しそうだ。なにがそんなに楽しいのかはわからない。
周りの迷惑にならない程度に、小声で話して、クスクス笑いあう。
そして以前のように、お年寄りが電車に乗ってきたら、優先席に座っている人に声をかける。
でかい声でしゃべってる他校の生徒に注意する、など、なかなか勇気がいることを平気でやっていた。
でも毎日、あっけらかんと楽しそうに過ごしている。
よくわからないけど、僕と正反対だなと思った。