花明かりの夜に
そんな沙耶の肩を、桂はぽんと叩いた。


「奥方さまの大事なお召しものが突風にさらわれたときは、ほんとにどうなることかと。

ありがとね、沙耶さん」

「いえ……わたしは何も」


(実際、何の役にも立ってないし。

若さまの放った矢がお着物を落としたのだもの)


「じゃあ、またあとでね」

「はい」


かすかにほほえみかえすと。

手を振る桂に手を振り返して、廊下を小走りで急ぐ。


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