白いジャージリターンズ~先生と私と空~


「直っ!!」


震える体を強く抱きしめてくれた。

一瞬誰かわからずに……


「あ……先生……」



誰でもない。
この体。
この匂い。
この感触、全部……私の大好きな先生だぁ……


体の力が抜けて、先生の腕の中へ倒れこんだ。



思い出しちゃう。
昔、昔のこと。

体育の授業中に、ふらふらして倒れたことがあったよね。
あの時、薄れる意識の中で先生のこと考えてたんだ。
今みたいに。


「直、しっかり!大丈夫、もう大丈夫だから」

「せんせ……」


この腕が好き。
この声が好き。


私をひょいと持ち上げて、ベッドへ運ぶ。


懐かしい。
あの保健室を思い出す。


なんだか今日はおかしいな……


高校生に戻ったみたい。


戻りたいな。
戻れたらいいのにな。
戻れないのかな。

愛する息子ができたのに、こんなことを考える私はダメだよね。


でも戻りたい。
先生のことをまっすぐに追いかけていたあの頃に戻りたい。

一日中先生のことだけ考えていたあの青春の日々……



「泣いていいよ」

先生の指が私の涙を拭う。
いつの間にか泣いてる。

「泣くなよって言わないの?」

「今は言わない。泣いていい。お前は頑張りすぎてる」


今だけ忘れていい?
母親だってこと。


忘れていいかな。


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