白いジャージリターンズ~先生と私と空~


「しかし、強敵だなぁ。高田コーチ」


先生は、ふーっと息を吐いて、私を見た。


「俺に電話してきた時言ったんだ。奥さんは、頑張りすぎています。旦那さんに心配かけないように、迷惑かけないようにって必死で頑張ってますって。それを見ているとどうしても助けたくなってしまいますって」


「そんなこと……?」


「多分だけど、俺を試したんだと思うよ。そこまで行っても俺が動かなかったら、直を奪うつもりだったのかもしれない」


「え、そんなことないよ。まさか」


「俺にはその覚悟が感じられたんだよな。うん…… 俺が、休み取るようにするって言ったら、ほっとしたような悔しいようなそんな返事をしてた。でも、本当に良かったですって。で、奥さんには言わないでくださいってさ」



高田コーチの優しさ、忘れない。
優しすぎるね、コーチ。


「直は、自分への気持ちには鈍感だからなぁ?」

「違う違う!それはない。空をかわいがってくれてるから、それだけだよ」


先生と月を見つめながら、いろんなことを話した。
正直に言えた。

戸惑っていること。
自分が自分じゃなくなってること。
空が好きなのに、大事なのに怖くなってしまうこと。

先生をまっすぐに昔のように愛したいのに、母親だってことを優先してしまって、
うまく愛せないこと。

怖いこと。
これからのこと。

毎朝、起きたらとても怖い気持ちで、不安になること。


今一番の望みは、何も考えずにただ、先生を好きでいたいってこと。
高校生に戻りたいってこと。




それが本音だった。



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