白いジャージリターンズ~先生と私と空~
私はその夜、空が寝てから、先生に話した。
内緒にしていたこと。
高田コーチに頼っていたこと。
とても安心したこと。
メールをしたこと。
先生には言えなかったこと。
「直のことだから、そんなことだろうとは思ってたけど。あれだろ?先生に言ったら、先生が無理しちゃう!!とか思ってたんだろ?」
ベランダで話す私達。
これ、好きなんだなぁ。
何も答えない私の頭をコツンと叩く。
「おい。聞いてる?高田コーチにドキドキしたりしてねぇだろうな」
「ふふふふ」
「え……やっぱり。直の好みだいたいわかるから……怪しいと思ってた」
焦りだす先生がかわいくて。
「そんなことないよ。ただ、救ってくれたってのは本当だから、大事な存在ではある。コーチがいなかったら、こうして先生に本音を言えなかったかもしれないもんね」
「お前の本音、まだ聞けてないけど」
「さっき、先生が助けてくれた時、高校生の頃を思い出したの。あぁ、こうして倒れたことがあったなって。その時、走馬灯みたいにいろんな思い出がよみがえってきて、幸せだったんだ」
白いジャージを着た先生。
半袖の先生。
プールの授業の先生。
廊下の向こうから歩いてくる先生。
姿勢のいい先生を見つけると、私の心のドキドキは止まらなくて。
会いたくてわざと先回りして、おはようって言ったり。
先生が食べてたやきそばパン、真似して食べたり。
先生があくびしてたら一緒にあくびしたりして。
もう先生だらけの高校生活だったんだ。
「俺も、思った。あの頃、俺は何が何でも直を守りたいと思った。その気持ちを今日、改めて感じた。忘れてたわけじゃないけど、ごめんな」
「先生のことを好きなだけで良かったの。あの頃。それがすべてで。だから、戻りたくなった。母親失格だけど、高校生の直に戻りたいって思ったんだ」
先生が肩を抱いてくれた。
今日も月が見てるね。
先生。
「わかるよ。母親失格じゃない。俺は、わかってねぇな。うん。一緒にいる時間が違い過ぎる。今日、俺が帰って来なかったら……どうなってたか」
「叱らなきゃって思うのに、怖くて……せっかく落ち着いてきた空がまた私を拒絶したらどうしようって怖くて」
「うん、そうだよな。昨日から少し落ち着いたから、嬉しかったもんな。俺が帰って来なかったら、高田コーチに助けを求めただろ?で、俺には言わないつもりだろ」
「……」
「はは、図星か。心配かけちゃう、とかそんなこと考えるなよ。家族なんだから。俺の息子なんだから。何より、俺は直を守りたい」
いい母親だって思われたかった。
先生に褒められたかった。
バカだよね。