残念御曹司の恋
「で、まんまとマスターに乗せられたわけね。」

玄関先で抱き合いながら交わしたキスは十数分にも及び、気づけばお互いにひどい顔だった。
さすがに少し冷静になって、リビングで話をした。
そこで、俺は重大な勘違いをしていたことを知らされる。

「東京へ行くって言っても期間限定だから。確かに来週辞令でるみたいだけど、所属は半年しか存在しないプロジェクトチームだし、部長からも半年経ったら戻してくれるって言われてるし。」

彼女の口から説明されたのは、俺が想像していたような状況ではなかった。

「だから、この部屋もこのまま借りてるし、たぶん週末には帰ってくるし。」

なんだそれ。ただの出張みたいなノリじゃないか。

「だから、もちろん引っ越しもしないわよ。必要最低限の荷物を持ってくだけで。」

そう言って彼女が指を指したのは、やや大きめのキャリーケースで。
俺は完全に気が抜けて、頭を抱えてソファに座り込んだ。
そんな俺を木下はくすくす笑いながら見つめている。

「でも、お陰で珍しいものが見られてよかったわ。」
「うるせー。ああ、もう!どいつもこいつも紛らわしいこと言うなよ。」

完全にバカにしたような口調に、ほぼ反射的に言い返した。
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