残念御曹司の恋
「結果的には、一途な愛が実を結んだんだから、美談だろ?」

得意げに言い放てば、司紗が意地悪そうに問いかけてくる。

「ねえ、竣は本当に10年間私に一途だったの?正直に答えてよ。」

一瞬、ドキリと胸が音を立てたが、俺は「決まってるだろ」と何食わぬ顔で答えた。

正直なところ、学生時代に司紗との関係に悩み自棄になって合コンで一回だけ女の子をお持ち帰りしたことがある。
でも、ホテルに入って、いざ事に及ぼうとすると、頭に浮かぶのは司紗の顔ばかりで、体は一向に反応せず、結局は「体調が悪い」と言い訳をして未遂のまま帰ってきた。

苦い思い出に、自嘲気味の笑みを漏らし、司紗の耳元に囁く。

「俺、司紗以外抱いたことはないよ。」

意外だと言わんばかりの表情の司紗に今度は俺が問いかける。

「司紗は?俺が迎えに行ったとき、支店のドアの横に意味深な視線を送るイケメンが立ってたけど?」

意地悪かなと思いつつ、少しだけ気になっていたことを尋ねた。
根拠はないけど、彼とすれ違った瞬間に、何だか胸騒ぎがしたのは確かだ。

司紗は一瞬驚いた顔をしたものの、すぐににっこと笑った。

「彼とは何でもないわ。私も竣だけ。あなた以外となんて、考えられないの。」

嬉しくて、思わず彼女を抱き寄せた。
ベッドの上、十年前と同じように彼女を力いっぱい抱きしめる。

もし、十年前、素直に思いの全てを口にしていたら、俺たちの今は変わっていただろうか。

ふと、そんなことが頭を過ぎったけれど、必死に打ち消した。
失われた過去を振り返ることはしない。
今、これからを彼女とどう生きるかを考えよう。

この恋の行き着く先。
それが、幸せな毎日であれば、他に何も望むものはない。

目覚めれば、彼女が隣にいる暮らし。
俺の幸せはもう目の前に迫っている。

笑いながら「竣、くるしいよ」と抵抗する彼女を、「もうちょっと」と説得しながら、いつまでも腕の中に閉じこめた。
< 88 / 155 >

この作品をシェア

pagetop