残念御曹司の恋
「初めて結ばれた思い出の部屋に住むのも悪くないけどさ。」
俺は、そう言いながら部屋の真ん中にあるベッドを見る。
俺の部屋は彼女が度々出入りしていた学生時代からほとんど変わっていない。
社会人になってからはほとんど寝るだけのために帰っていたようなもので、ベッドの位置も10年前から同じままだ。
俺の視線に気が付いた彼女が、「やだ、もう」とつぶやいた。
「久し振りに泊まってく?」
そう言ってからかえば、彼女も笑って答える。
「さすがに、そんな勇気はない。」
少しだけ期待したのに、つれない返事だ。
「それより、お母様と仲本さん、私たちのことどこまで気づいてらっしゃるのかしら?」
母親の先ほどの発言が、急に心配になったのか、そんなことを言う。
「ああ、あの言い方だと俺が司紗のこと好きなのはバレバレだったんだろうな。エッチしたり、泊まってたりしたことは…どうかな、気づいてないと思うけど。」
「やだ、気付かれてたら、どうしよう?」
「ほら、やっぱり新居は別のところだな。この距離感はやっぱり近すぎるって。」
冗談めかして言えば、司紗の口からも笑みがこぼれる。
どこまで気づかれていたかは分からないが、たぶん二人とも何も言ってきたりはしないし、全ては今更である。 開き直るしかない。
司紗も同じなのか、のん気に「知られてたら恥ずかしいなあ」なんて言いながら、ベッドに腰掛けた。