彼があたしを抱くとき
あわてたあたしが、コートをひっかけて、外へ行くと、海岸通りを寝間着のたもとを風にひらつかせながら、母が歩いていく。
裸足の姿は“狂女”を思わせ、ぞっと身振いがした。
母は狂ってしまうかもしれない。
暗黒の予兆が走りぬける。
「どこへ行くつもりよ」
十一月中ばの風はつめたかった。
母の後に追いつく頃には、ガチガチと歯の根が鳴って手足の温度が冷えていくのが、はっきりとわかる。
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