極甘上司に愛されてます




遊園地デートの帰りに、バイクで送ってもらった家の前。

別れる名残惜しさもあって、私たちは部屋の前でしばらく立ち話をしていた。


「……職場の皆には、言わない方がいいですよね? 仕事、やりづらくなりそうだし」

「別に、あえてこっちから言う必要はないけど、バレたらバレたで隠す必要もないんじゃねぇの?」

「……そっか。そうですね」


ばれるのは、とてつもなく、恥ずかしいけど……。


その会話が途切ると、私は帰り道の間中ずっと考えていたことを切り出す。


「あの……私、近いうちに、彼と話をつけてこようと思ってるんですけど……」

「彼って……アイツのことか?」

「はい……こんな状況で、と思うかもしれませんけど。……やっぱりちゃんとお別れしてないのは気持ち悪いし、編集長にも申し訳ない気がしてしまって」


このまま自然消滅……っていうものアリだとは思うけど、新しい恋人がいるからこそハッキリさせておきたいんだ。

渡部くんとは、ちゃんと別れました――っていう事実を。


「俺は気にしないけど……お前がそうしたいなら止めねぇよ。ただ、話するのは人目のあるところにしろよ? 相手は男だ。万が一ってこともある」

「……わかりました」


編集長のさりげない気遣いが胸に沁みるのと同時に、前に危険なところを助けてもらったことを思い出す。

ああいう姿を見せられているうちに、少しずつ彼に惹かれていたのかな――。


「――じゃあ、そろそろ帰る」

「あ……はい! あの、下まで送ります」

「いいよ。もう遅いし、俺が行ったあと外でお前が一人になるのが危ないだろ」

「別に、すぐ家に入れば大丈夫で――」


す、の言葉は、突然に与えられたキスのせいで、声にならなかった。

周りに人はいないし、部屋の扉のすぐ前とはいえ、こんなところでされるだなんて――。

私は柔らかくて甘い感触に酔いそうになりながら、目を瞬かせた。


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