極甘上司に愛されてます


しかし、今日の目的は決して美人のキャバ嬢と会話をすることではなく、専務の本心を知ること。

カランと氷を鳴らしながら酒のグラスを傾け専務の方を窺うと、両側にいる女性が甘えるように身を寄せても、それを柔らかく受け流して涼しい顔で酒を飲んでいた。

まぁ、予想通りと言えば予想通り。
あの人がこういう場所で鼻の下を伸ばすような隙を作るわけがないよな。


『……高槻さん、ちょっと相談してもいいですか?』

『相談?』


専務の方に気を取られていた俺に、美緒が声を潜めてそう言った。

初対面の俺に一体何を……? 一種の営業トークというやつだろうか。

美緒は拳ひとつ分くらい空いていた俺たちの隙間を埋めるようににじりよってくると、俺の耳元に顔を近づけて話す。


『お店にも、同僚の女の子たちにも、まだナイショにしてるんですけど……私、妊娠してるんですよね』

『――え?』


その言葉に少なからず驚いた俺は、思わず周囲を窺ってから、小声で言う。


『こんなトコで働いてて平気なんですか?』


ただでさえ煙草の匂いの充満する店内。同じテーブルでウチの社長も煙草を吸っている。
この仕事なら酒だって飲まなきゃならないだろうし……


『……煙草はどうしようもないけど、お酒はなんとかお断りして今日まで来てます。辞められたら一番いいけど、お金、稼がなきゃいけないから……』

『子供のためにですか?』

『はい。……一人で育てるつもりなので』


父親は?と聞こうとして、やめた。

一人で育てると言っているのだから、触れて欲しくないことかもしれない。


< 172 / 264 >

この作品をシェア

pagetop