極甘上司に愛されてます
「ありがとう。……早めに引っ越しの準備する」
「ああ。でも、一緒に住む前にはちゃんとお前の実家に挨拶に行こうな」
背中越しに聞こえた優しい声に、私はコクリとうなずいた。
仕事ももちろん大事だけれど、やっぱり“好きな人のお嫁さん”になるのは、ずっと前から変わらず胸に抱く憧れ。
これからそれが現実になろうとしているなんて、私は世界一の幸せ者だ。
「高槻……亜子、かぁ」
「……ずいぶん気が早いな」
「いいじゃないですか。女子は苗字が変わることに思いを馳せたいんです」
「なるほど。それは男にはわからない心理かもな」
変わるのは、そういう形式的なものだけじゃなくて……きっと、精神的にも大きく変わるはずだよね。
今でも支え合っているつもりだけど、一緒に住んで、ふたりの家庭を築いていくことで、彼との絆は強くなると信じているから。
「……じゃー、あと少しの“北見亜子”を、もう一回味わっとくか」
水道を締め、くるりとこちらを振り返った彼が放った言葉に、私はいやな予感がしてじりじりと後ずさりする。
「え? ちょ、私さっき、もう立てないって――」
「お前が楽な姿勢でいい」
「そういう問題じゃありませんっ!」
声を上げて反論しても、私の身体は透吾に軽々持ち上げられて、寝室へ強制連行されてしまった。
ああ……一緒に暮らし始めたら、私の身体は一体どうなってしまうのやら。
そんな不安を覚えつつも、幸せなことに変わりない。
私たちのバレンタインの夜は、甘く甘く溶けていった。
番外編 END


