極甘上司に愛されてます
編集長はそう言ってくれたけれど、私は疑いの眼差しをじとっと向けた。
……本当かな。いつも頭の中お花畑の私の夢なんて、どうせ“好きな人のお嫁さん”だろうとか思われていそう。
そしてまた悔しいことに、自分でもそれを否定できない。
「まぁでも、取材とはいえいい勉強になるんじゃねーの? 自分が式挙げる時のための」
「……いえ、そういう雑念は追い払いながら仕事します」
「まだ気にしてんのかよ」
鼻で笑った編集長の顔に、近づいてきたバスのライトが当たる。
……そりゃ気にしますよ。記者になってから初めて任される大きな仕事を失敗したくないもの。
こないだ失敗した分の信用を取り戻したいのはもちろん、いい記事を書くことで、編集長に恩返しもしたい。
そうなると、やっぱり心配なのは、恋愛の浮き沈み。
渡部くんとの交際は極めて順調ではあるけど、それでも私のことだ。
どんなに恋が上手くいっていようと、少なからず仕事に影響してしまう……
……それならいっそ。
「……私、脱稿まで彼との連絡、断ちます」
バスの扉が目の前で開いたけれど、私は編集長に向かってそう断言した。
「あぁ? お前いくらなんでもそれは……」
「別れる――、っていうのは結論を急ぎ過ぎたと思います。でも、やっぱりそうでもしないと上手くやれないと思うんです……私、不器用だから」