極甘上司に愛されてます
「渡部くん……?」
「……びっくりした。すごい偶然だな」
どうやらさっきのは見られていなかったらしい。私の元まできた彼が、いつも通りの微笑を浮かべる。
私服姿で、後ろには可愛らしい女性を連れていて……その女性をちらっと見やると、なぜかものすごい形相で睨まれて、私は慌てて目をそらす。
「ああ、紹介するよ。この子はウチの新人の夏子ちゃん。あれ、苗字なんだっけ」
「……和田です」
不愛想にそう言って、頭を下げるどころかそっぽを向いた和田さん。
初対面の私になんでそんな態度……? 気になるけれど、とりあえずこちらの方が年上だし、と落ち着いて挨拶を返す。
「北見です。あの大きい人は上司の高槻。近くの新聞社に勤めてて、渡部くんとは去年からお付き合いを――」
「――北見、中で呼んでるぞ」
まだ挨拶の途中だったのに、私の声にかぶせるように編集長が言う。
「あ、亜子、もしかして仕事? ごめんな、邪魔して」
「え、ううん、全然平気!」
仕事じゃなくて合コンだと、いくら後ろめたいことがない参加理由だとしても、この流れで言う勇気はない。
心の中で渡部くんに“ゴメン”と謝りつつ二人の元を去り、早々に合コンの部屋へと戻った。
王様ゲームかなにかでさっき以上に盛り上がっているらしい皆は、私が戻ってきたことに全く気付いていない。
そのテンション高めな空気に気後れしつつ、妹の肩を控えめに叩く。
「……ねえ、私のこと呼んだ?」