俺様富豪と甘く危険な恋
「まあな。だが、そんなことで謝るなよ。今日一日、栞南のプランで動いているんだ。これはこれで楽しいぞ」

「傷はどうですか? 痛みますか?」

「いや。まったく痛まない」

「よかったです」


そこで店員の年輩の女性が招牌雲吞麺をふたつ運んできた。

蓮のような男性を初めて見るかのような食い入る目つきで、栞南に眼中ない年配の女性だ。


『ゆっくりしていってくださいね。これはサービスですよ』


2杯の招牌雲吞麺と一緒にテーブルの上に置かれたのは青菜の炒め物だ。

女性店員はよほど蓮が気に入ったようだ。

広東語が飛び交う店内は香港らしさがあって、栞南には楽しい。

香港の麺は極細麺で固めだが、見た目より美味しくふたりは食べ終えた。

カフェにも入り、香港名物の甘いミルクティーとエッグタルトも食べて栞南の顔に幸せそうな笑みが広がる。


(やっぱり自由って素晴らしい)


目の前のブラックコーヒーを飲む大好きな人を眺めながらエッグタルトを頬張る栞南だ。

そうこうしているうちに女人街がにぎわう時間帯になり、ふたりは向かった。


< 195 / 369 >

この作品をシェア

pagetop