俺様富豪と甘く危険な恋
大好きなコーヒーを一口飲むが、すぐにカップをソーサーの上に置く。


(はぁ……なんだか気持ちが落ち込んで苦しい……)


テーブルに両肘をついてぼんやりしていると声をかけられた。トニーだ。


「――ありますか?」

「えっ?」


トニーの声がまったく耳に入っておらず、栞南はばつの悪い顔になる。


「ごめんなさい。ちょっとぼんやりして……」

「あとで出かけてきますが、何か欲しいものはありますか? 買ってきますが」

「あ……いいえ。何もないです」


栞南はさっきまでの考え事が尾を引いているのか、口元をこわばらせて首を左右に振る。


「わかりました。1時間ほどで戻ってきますが、3人ここに残りますのでご安心を」


トニーは栞南の顔からテーブルの上のほとんど手をつけられていない料理に視線を向けたが、そのことについてはなにも言わず離れて行った。

ほとんど手つかずの料理をキッチンに片付けて、自分の部屋に戻った栞南はそのまままっすぐ窓辺へ足を向けた。

緑に覆われた山が見えるが、澄んだ青い空の方が近く感じる。


< 56 / 369 >

この作品をシェア

pagetop