俺様富豪と甘く危険な恋
(外に出ていないから、気が滅入るのかな)


昨日、自分に万が一のことがあったときの為に、両親へ手紙を書いた。

それがいけなかったのだろうか。自分が死と直面していることを思い出した。ここへ連れて来られて安心感が出てきてのんびりしていた気持ちに、喝を入れられたような感じなのだ。

もっと親孝行しておけばよかった。もっと人生を楽しんでおけばよかったと、考えれば考えるほど悲しくて、自分は死ぬかもしれないと負の感情が心を閉めて胸が痛くなる。

栞南は痛む胸を服の上からぎゅっと掴んだ。


(楽しむってどういうこと? 旅行や仕事や……彼氏?)


初めて出来た恋人に二股をかけられ、よい思い出なんか薄い紙のごとく吹き飛んでしまった。


(何が楽しかったんだろう……)


孝太郎が営業から戻ってきた姿を目にすると胸がドキドキしたものだ。同じフロアだから、孝太郎を身近に感じられた。

身長は高いけど、誰もが振り返るほどのイケメンではなく、温厚そうな雰囲気の彼だった。

裏表もなさそうな人だったのに、裏では常務の娘と付き合い、結婚話まで進んでいた。


(付き合ってた9ヶ月、なんだったんだろう……)


孝太郎と付き合っていた時間が今ではもったいなく思える。

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