俺様富豪と甘く危険な恋
「これもいらない」


栞南の肩がから下げているバッグを取ると、テーブルの上に無造作に置く。


「それじゃ手持ち無沙汰です」


何も持たせずにどこへ行くのだろうと、疑問が沸いてくる。


「必要ないんだからかまわないだろ。行くぞ」


蓮は栞南の腕を軽く掴むと、玄関へ。栞南は強引に歩かされ、仕方なくスニーカーを履いた。




ダニエルが運転するベンツの後部座席に蓮と並んで座る栞南は、極力窓際に身を寄せていた。

蓮の長い脚が斜めに組まれており、カーブでハンドルがきられるたびに栞南の足に触れてくる。そのたびにお腹の奥がきゅんとなる感じに襲われるのだ。

当の本人は山道のカーブなのだから仕方ないと、まったく気にしていない様子。敏感になっているのは栞南だけ。だからなおさらドアにぴったりと身をよせてしまうのだ。

香港島のビル群を下に見ていたが、しだいにビル群は大きく目の前に現れた。上環の街に出たようだ。

2階建てのバスやひょろっと縦に長いトラムが走っているのが見える。


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