マルボロ・ヒーロー
「タカさんは結婚しないんすか?」

サクの目線は、相変わらず携帯電話の待ち受け画面に向けられたままだ。


「うるせーよ」

「イケメンの部類に入ると思うんだけどなー。彼女欲しいとか思わないんですか」

「……」



ふい、と顔を背けたのは

照れ隠しなんかじゃなくて



「……忘れた。」

「うーわ、」


はあっと大げさにため息を吐いて、サクは俺に視線を寄越した。


「そういう気持ち忘れちゃお終いっすよ、男として」

「……違うよ」

「え?」


次の公演先の小さな町へ向かって
バスはスピードを上げる。

サクが隣で何か言っていたが、走行音に紛れてよく聞こえなかった。
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