聖夜の忘れ形見
婚約者
「お嬢様、駿河(するが)様がお見えでいらっしゃいます」


学習院から帰宅した清瀬小夜(きよせさや)が自室で寛いでいると、女中の村田が部屋にやって来た


「あ、はい」


鏡台の前で前後左右に首を振って髪の毛を整え、着崩れがないかを確認し、鏡に向かって笑顔を作る

駿河虎太郎(こたろう)は小夜の婚約者で、一目見た時から恋に落ちていたのだ


「小夜、入るよ?」


コンコンとノックの音がして、小夜の背筋が伸びた


「はっ、はい」


少し上ずった声で返事をすると、虎太郎が笑いを噛み殺しながら入って来る

きっと、またからかわれるのだろう

そんな思いが頭をもたげ、小夜の下唇が自然と前に突き出る


「またそんな顔して」


思っていた通りの反応

それでも、優しく頬に触れる虎太郎の手のひらに胸をときめかせるのだが


「気難しいお嬢さんだな」


「そん…なこと………ありま…せん」


カアッと顔が熱くなる

至近距離で見つめられ、その手から逃れようと顔を背けた
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