聖夜の忘れ形見
「女学部は楽しいかい?」


「はい、とっても」


一瞬表情が歪みそうになったのを堪え、笑顔を浮かべる

戦前、女性が高等学校や大学で学んだのは極めて稀なことで、尋常小学校を卒業すると家業を手伝ったり、職に就いたりしていた

そんな中、裕福な家庭に生まれた小夜は高等女学校を卒業

この4月に女子高等師範学校へと入学した

そして学校にも慣れた頃、突然縁談が決まったのだ


「突然転籍させて、済まなかった」


「…いえ、ご心配には及びませんわ」


虎太郎に勘ぐられないよう、言葉に気を付け喋る


「そうか。なら良かった」


縁談が決まると、虎太郎は小夜に学習院女学部へ転籍するように伝えた

小夜の父親が難色を示す中、女性にも学力が必要と説き、学費を負担すると持ち掛け、半ば無理矢理転籍させたのをずっと気にしていたのだ


「………はい」


頬からするりと手が離れ、傷心の小夜の胸にチクリと痛みを残す
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