聖夜の忘れ形見
「むっ、昔はっ!私と結婚して下さるとおっしゃったじゃないですか!」


目に涙を浮かべ、口をへの字に曲げる


「そんな子供の頃の話───」


「虎太郎さんにとっては冗談だったのかもしれませんけど、私にとっては本気だったんです!」


突然泣き出した静に掛ける言葉も見つからず、虎太郎はただ唇を噛み締めた


「………嘘つき…。虎太郎さんなんて───」


『大嫌い』


そう叫ぼうとして思い止まる

静が嫌いなのは虎太郎ではない

むしろ好きで好きで堪らないからこそ、こんな惨めな思いをするのだ


「………静、結婚は親同士が決めることだ。それに僕は小夜を愛───」


「清瀬さんなんか───…。清瀬さんなんて居なければよかったのに!」


「静っ!」


虎太郎の怒鳴り声に、体を硬直させる


「もう一度同じことを言ってみろ。小夜を侮辱することは、例え君でも許さない」


怒りに揺れる瞳に、静はそれ以上何も言えなかった


「………過ぎた口を利いてしまい、申し訳ありませんでした。………帰ります」


静が扉を閉めたのを確認し、大きな溜息を吐くと虎太郎は父の会社の資料に目を落とした
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