君のとなりに
「降谷さん。」
「なに?」
「あたし、降谷さんのことやっぱり嫌いじゃない。」
「やっぱりの使い方おかしいと思うけど。」
「どうして?」
「やっぱりってのは、前から思っていたけれど結局みたいなニュアンスだろ?」
「だったら合ってるよ。」
「…お前がわからない。」

 またしても眉間に寄った皺に、桜は笑った。桜が笑うと降谷は不機嫌になる。

「俺はお前みたいな女は大嫌いだけどな。」
「ひどーい!これでもあたしはモテるんだから。」
「だろうな。だから嫌い。」

 納得がいかない。

「モテる女は自分がモテることを知っててそうしてる。飽きたり、自分に都合が悪くなったりしたらすぐ終わり。実際そうだろ?」
「うぐ…。」

 実際そうだ。核心を突きまくられて、桜はぐうの音も出ない。

「ほらな?そんな女は男をも大事にしてないけど、本当は自分を一番大事にしていない。」

 ズキッとわかりやすく、音が鳴ったような気がした。

「自分が一番大事じゃない人間なんて人間じゃない。嘘まみれだ。」

 辛辣な言葉ばかりが並ぶ。だが、降谷がそう言うからにはそれが真実だと思えるような気がしてくる。

「降谷さんは、あたしが嘘まみれって言いたいの?」
「つまりはそういうこと。お前の態度のどこをとっても嘘まみれだ。信じられるもんの一つもない。」

 それほど多くの言葉を交わしたわけでもないのに、ここまで見抜かれるのは桜にとっても想定外だった。ただ、不思議なことに悪い気は全くしなかった。

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