君のとなりに
* * *

 危うい子だと、思った。目が笑っていなかった。表情と心が一致していないことなんて一目でわかった。
 何かを長々と話すのは昔から不得意で、その代わりに、人をじっと見つめることが多くなり、自然と観察力なるものが身に付いた。だからこそ、あの合コンの場でわかったのだ。この子はきっと、寂しい子なのだろうと。

「…そばにいてよ…。」

 呟かれた寝言に振り返ると、桜の瞳から一筋涙が零れ落ちた。納得できた部分と、納得できても心が追い付いていかない部分があったのだろうことは容易に想像できた。

「…いなくなったり、しないから。」

 とりあえず今は、いなくなることの方が難しい。

「来たばっかりだしな。」

 それに、勘違いから目を覚まさせなければならない。

「優しさに飢えすぎだ。」

 そっと涙を拭うと、幼い寝顔へと変わった。

「寝てる分には、…可愛いけどな。起きた瞬間、我儘姫に変貌するからな。」

 どうしてここまで構ってしまうのか、自分でもよくわからない。その中でなんとか絞り出して、放っておけないからだと口にした。それに嘘はないし、多分それが今の自分の心をもっとも適切に表した言葉なのだろう。
 この先どうなりたいだとか、そんな展望も特にはない。仕事についても、桜のことについても。いつだって自分の気持ちを優先に動いたことなどなかった。
 だからこそ、相手の出方次第で事を決める。とするならば、桜の言った『好き』に対しても、あんなに曖昧にすることは、きっとできなくなるだろう。

「…気の迷いなら、それでいい。」

 幸せになれる道を選んでほしい。20歳にしておくには切ないほどに、苦しんだのだと思うから。
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