アイスクリームの美味しい食し方
「もう、治療の施しようがないとは、
随分前からお話していますね。」

「はい。」
私は頷くしかなかった。
期待もしていなかったし、
いつ誰がそうなってもおかしくない話で、
母や私が特別な訳ではない。

「引っ越されるそうなので、
お聞きしておかねばならないことがあります。


もし、その時が来たら、
延命治療を施しますか?」

先生は言った。


「それは、いつですか?」

私は震える声を抑えて聞いた。


「数ヶ月後かもしれないし、
数年後かもしれないです。

つらいお話ですが、
現実なのです。」

私は自分の手を見た。

あぁ、私もいつか死ぬんだな。
母の話なのに
何故かそんな風に思った。

この手は動かなくなり、
いつか、その血管も役目を終え、
身体の中も静かに落ちるように
終結へと向かうのだろうと
自然に理解した。

動揺してしまうのは、
その猶予が、
誰にとっても
思うより短いことだ。

それなのに、
私は母のそばを離れようとしている。


そうするしかなかったのだけれど、
後悔しないだろうか。


いや、後悔に耐えられるのだろうか。

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