キミの瞳に恋してる ~運命の人は鬼上司!?~


「それより、結婚相談所に登録したんでしょ?良いひと、見つかりました?」


長井くんが人懐っこい笑顔で聞くも、菜穂さんはきっと彼をにらみつけた。

近くにいた杉田さんは、その顔を見ただけでちょっと怯んでいるみたい。


「ううん。まだ……というか、やっぱり矢崎君しかいないのよ、私には」


鬼のような顔から、能面のような顔に変わっていく菜穂さん。

その横を、私はお客様を見送りながら通り過ぎる。


「じゃあ、また取りに来るから、よろしくね」

「はい、お待ちいたしております。ありがとうございました」


挨拶を交わしてお店の外に出ると、深く頭を下げる。

お客様は自家用車ですっと駐車場から出ていった。

その間も、私の胸は不安でドキドキと脈打っていた。

矢崎君しかいないって、どういうこと……?

とにかく、お店の中に戻らなきゃ。

くるりと踵を返すと同時、自動ドアがぶうんと音を立てて開いた。

びっくりして見ると、菜穂さんが鬼の形相で店を出て行こうとしている。

私は慌ててうつむいた。


「ねえ、あなた」

「はい」


話しかけないでよ~。なんなの、もう。

ドキドキしていると、目の前で自動ドアが閉まってしまった。

入口の外に、菜穂さんと二人で残される。


「あの人たち、ひどいのよ。元同僚なのに、部外者は寮に入っていくなって言うの」


まさか、店長の休憩中を直撃しようとしたの?このひと。


「約束してないならダメだって。少しくらい協力してくれてもいいと思わない?」


思わないー。


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