キミの瞳に恋してる ~運命の人は鬼上司!?~


「初芽?」


今度は、心臓が止まるような気がした。

やっぱり、あの立ち方は俊だ。

声を聞いて確信すると、なぜか体が勝手に、部屋とは逆の方向へ走り出す。


「初芽!」


追いかけてくる足音。

それから逃れようと、全速力で走る体。

逃げていてもどうしようもないと、麻耶ちゃんと話したばかりなのに。

そんな思いとは裏腹に、私の本能はいいから逃げろと命じる。


「待て!おいっ!」


鬼が追ってくる。

私はぺたんこシューズで、もと来た道をダッシュした。

けれど、どれだけ頑張っても男の人の足にかなうわけもなく。


「初芽!」


とうとう、手首をつかまれてしまった。

ぐいっと引かれ、よろける。


「逃げるなよ……」


そのまま背中から強引に引き寄せられて、気づけば私は相手の腕の中に、すっぽりと収まっていた。

全力で走ったのと、俊のにおいに包まれたのとで、心臓がドキドキと早い鼓動を刻む。


「また逃げたら、叫ぶぞ」


私を捕まえた鬼は、そう言って脅しをかける。

いや、これって、私が叫ぶ方なのでは……?


「ねえ、あれって大丈夫なのかな」

「警察呼んだ方がよくね?」


ちょうど近くを通りかかった大学生らしきカップルが、ひそひそとこちらを見て話している。


「だ、大丈夫ですよ~」


得意の作り笑顔で言うと、彼らは気味悪がって、早足でその場を去っていった。



< 151 / 229 >

この作品をシェア

pagetop