キミの瞳に恋してる ~運命の人は鬼上司!?~
「……このままだと、本当に通報されますよ?」
「お前が悪いんだろ。体調不良で休んだやつが、どうしてこんな夜中にフラフラしてんだよ」
ぎゅうと後ろから抱きすくめられて、うなじに息がかかる。
それだけで、肩がびくりと震えてしまった。
「電話にも出ないし、家にはいないし、心配した」
そういえば、麻耶ちゃんちに行ったときから、話に夢中でスマホを見るのも忘れていた。
「だって……」
もとはと言えば、あなたが。
昨夜の悪夢を思い出すと、それだけで涙がこぼれそうになる。
すると、俊はそっと腕を離し、くるりと私の身体を反転させた。
街灯に照らされたその顔を間近で見て、驚く。
「それ、どうしたんですか?」
服は仕事用のスーツのままなのに、メガネは休日用の黒ぶち。
そして、彼の右頬が真っ赤に腫れあがっていた。
「長井に殴られたんだよ。で、顔はこうなって、メガネは吹っ飛んで壊れた」
不機嫌そうに言う俊。
ひええ、長井くん、鬼に素手で向かっていくなんて、なんてことを。
「だから、お前が色々と誤解していることはわかっているつもりだ」
「あ……」
「話がしたい」
真剣な顔で見つめられれば、もう拒否することはできない。
仕方なくうなずくと、俊は私の手を引き、アパートの方へと戻っていく。
それだけで、もう泣きそうだった。
嬉しくて泣きそうなのか、悲しくて泣きそうなのか、もう自分でもよくわからなかった。