キミの瞳に恋してる ~運命の人は鬼上司!?~


「八幡店って、どういうところなんでしょう?」


とぼとぼと加工台のところにいた店長に、話しかける。

店長は地区長からの辞令があることを知っていたみたい。


「イケメンの店長がおるで~」


関西から出てきた40代の店長が、のんびりと言った。


「えっ、本当ですか!?」


イケメンがいるなら行ってもいいかも。


「でも僕はあの人嫌いですね。偉そうで、売り上げがいいからって天狗になってる感じがして」


休憩明けでバックヤードから出てきた次席の先輩が、会話に参加してくる。


「まあ、実際あれだけ若くて店長試験に受かって、毎月予算達成してるんやから。天狗になってもしょうがないんちゃう?」

「一緒に働いたことのある僕の同期が、あいつは鬼だって言ってましたよ」

「厳しいから、売り上げも作れるんやろ」


ええ……天狗に鬼……しかも厳しいの?


どうやらあまり評判の良い人ではないみたい。

どうしようかな……めんどくさいし、辞めちゃおうかな。


もともとすごくやりたくてこの仕事に就いたわけじゃない。

唯一就職試験で私を通してくれたのが、この会社だったというだけ。


販売業だから、土日休みの友達ともなかなか会えず、彼女らが開催する飲み会にも参加できず、長いこと彼氏ナシの日々が続いている。

社員にはろくな男がおらず、このままではかっさかさに乾いてひび割れて死んでしまう。


いっそ、派遣にでも登録して、受付の仕事で色んな会社を回り、寿退社のお相手を探そうかと思っていたくらいだ。


けれど、今のご時世、正社員の座をわざわざ手放すのは、果たして賢い選択なのか?


……こうして、私は自分の幸せだけを考えた挙句、どうしたら良いかわからなくなってしまい、この占い師のところに来てしまったのである。


我ながら、なんて他力本願なんだろう。



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