キミの瞳に恋してる ~運命の人は鬼上司!?~
「今月、いまんとこのお前の単価。前の店と比べて、1万円以上上がってるだろ」
気づけば、異動してもうすぐ1か月経とうとしていた。
前のお店のときの平均単価なんか忘れちゃっていたけど、私はおとなしくうなずいた。
「今日のお客様は運が良かったです。ご自分で良いものを、ささっと決めてくれて」
「ああ、そうだな。でもそれは、お前がちゃんとすすめたからだろ?」
さっきの女性みたいなお客様は、そうそういない。
誰でも自分の予算というものがあって、その中で自分に合うものを選ぼうと必死になるため、もっと迷ったり、値切ろうとされたりすることが多い。
「そう……でしょうか」
やっぱり、運が良かっただけのような。
「運だけじゃ、単価1万は上がらねえよ。お前、自分ががんばったって自覚もねえのか」
「はあ……正直、このお店に来てから忙しすぎて、自分が何やってたかわかんないときもあります」
「それでいいんだよ」
テンパって、ミスしてしまうときもあった。
丁寧に検眼をしたメガネも、あとで度を作りなおしてほしいと言われたこともあった。
型直しのお客様のメガネをうっかり折ってしまって、平謝りしたことも。
それでも店長は、だんだん怒らなくなった。
私も少しづつ仕事を覚えていくうちに、気づけば前ほど、お店に出たくないとは思わないようになっていた。
「必死にがんばってたってことだろ」