サイレント
「樹里」

そう、息の上がった声で呼ばれて意識を飛ばしそうになった。

今までずっと「先生」としか呼んでくれなかったくせに、こんな時に初めて名前で呼ぶなんて、ずるい。

樹里の頬に涙が伝った。
悲しいのか嬉しいのかわからない。
一が樹里を好きだからこうなったのか、ただしたかったからこうなったのかわからない。

正直、中学生の男の子なんてさせてくれる子がいれば100%本能のままにしちゃう気がしてならない。

一だって、他の生徒たちと変わらない14歳の男の子だ。

樹里はもう何度も「好きだ」と一に伝えているのに、一は一度も樹里を「好き」だなんて言わない。

側にいるだけで幸せだけど。こうやって一が触れる相手が自分だというだけで幸せだけど。

きっと三年後の未来に対する不安の度合いは樹里と一じゃ全然違う。

三年経っても一は高校生だけど、樹里は28歳だ。
友達は皆当たり前に結婚して、子供だって産んでるかも知れない。

アルコールや煙草だけじゃ不安を紛らわすことなんて出来なかった。

「一くん……好き」

「……うん」

「うん」じゃなくて、そうじゃなくて、聞きたいのはそんな言葉じゃない。
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