サイレント
樹里の肩を掴んでいる一の手に力が入る。

ここが家の前でなければ今にもキスをしそうな程近くに一の顔があった。

「ごめん俺、余裕ない」

「え?」

「先生を取られるんじゃないかって。相沢や尾垣に……だから、簡単に他の奴と会ったりしないで」

物凄い衝撃が樹里を貫いた。雷に打たれたように頭から爪先までを電流が駆け抜けた。

これが一瞬の幸せでも構わない。

樹里はたまらず一に抱き着いた。
停めてあった自分の車の陰になるよう一を車体に押し付けた。

「私はハジメくんしかいらない」

他は誰も、誰でも一緒。樹里の心を動かす人はいない。どこにもいない。一だけだ。
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