サイレント
図星をつかれて動揺したのか、一は陽平のシャツから手を離し、ふらりと一歩後ろに下がった。

「お前らがうまくいかなかったのは……お前がガキだからだ」

それ以外に理由がないことなんて一や陽平でなくてもすぐに見当がつく。

けれど今まではっきりと口にしなかった。

「じゃあどーしろってんだよ。どうしたって生まれてくる時期を早めたりできない。努力でどうにかなる問題じゃないのにっ」

「だから、諦めろ。あの子が好きなら身を引くのも思いやりの一つだ。今のお前にはあの子を苦しませることしかできないだろ。見てて可哀相だ」

一は陽平の言葉に頭を抱えた。ちくしょう、と悔しげに吐き捨てる。

陽平はそんな一の肩に手を置いた。

「実際さ、お前が二年も諦めずにいたことにびっくりだよ。普通忘れるだろ。忘れなくても他に誰かを好きになったりすんだろ」

「……」

「後一年して、そんで諦めつかなけりゃ婚姻届でも持って樹里ちゃんに告りに行けば?どっちみちお前が学生でいる限り見込みはない」

残酷だけれど事実を突き付ける。

「卒業したって無理だったらどーすんだよ」

「別の女を好きになればいーだろ」

一の肩が僅かに震えた。

こんなことをいつまでも続けさせていたら、こいつは壊れてしまうかもしれない。そう思った。
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