サイレント

two

ガチャリ。

合い鍵でアパートの扉を開くと中から甘い香りが漂って来た。

朝だというのに遮光カーテンがぴっちりと引かれているため、部屋の中は薄暗い。

エアコンの効いた部屋はひんやりと冷たかった。

テツは靴を脱ぐと床に散らばった女ものの衣服を拾いながら洗濯機に向かい、拾った衣服を全て投げ入れた。

洗剤と柔軟剤を入れて洗濯機のスイッチを入れる。
ジャーっと水の溜まっていく音を聞きながらテツは狭いキッチンへと向かった。

冷蔵庫からヨーグルトを取り出し、自分が持って来た林檎、オレンジ、キウイを剥いて一口大に切ってゆく。

そうして朝食の用意を整えるとテツは奥のベッドまで行き、薄手の布団をめくった。

「樹里、起きなよ」

声をかけると樹里は苦しそうに呻いてモゾモゾと布団を被ろうと手をさ迷わせた。

テツはその手を掴んで樹里の髪を撫でる。

「また薬飲み過ぎた?大丈夫?」

二年くらい前から姉は夜眠れず、眠剤に頼っていた。

急に一人暮らしを始めた樹里のところにテツは月に数回やってくる。

そうしなければ樹里はろくなものを食べないし、生活も荒れていく一方。
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