サイレント
その小説の主人公は25歳の保健室の先生で、名前こそ違えどイメージが樹里とぴったり重なる。

話の内容自体はその主人公が自分の学校の生徒に恋をするというありきたりなもの。けれど、それを身近な人物に当て嵌めて読んでいるとすごく面白かった。

しかも幸子はその相手の生徒にもひそかに当て嵌めている人物がいた。
二年の芹沢一。彼はインド人とのハーフだということで小学校の時からちょっとした有名人だ。一つ年下の幸子でもよく知っている。

そんな芹沢一とは何度か保健室で顔を合わせたことがある。幸子にはその時の樹里と一の様子が、普通の生徒と先生以上の何かがあるように見えた。

もちろん幸子の妄想フィルターがかかっているからそう見えるだけなのかもしれないけれど。楽しければなんでもとことん楽しむのが幸子のモットーだ。

しばらくそうやって携帯片手に樹里の様子を観察しながら楽しんでいると、ガラリと保健室の扉が開いて誰かが入って来た。

幸子は起き上がってこっそりカーテンの隙間から覗いた。

もしかして芹沢一がやって来たんじゃないかと、ワクワクして覗いた幸子はすぐにがっかりした。

入って来たのは年中同じ色のジャージばかり着ている体育教師だった。
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