エルドラドステージ
三人は顔を見合わせた。

「この…樹…なのか?」

砂漠の旅を冷静に計算高く…言い換えれば常に現実的で合理的な判断で乗り越えてきた武は、不可思議なものを直感で理解することが出来ない。

しかしその声は現実にハッキリと武にも聞こえている。


【私の声が聞こえるなら応えて欲しい…。私はこの通りもはや自分で何をすることも出来ないのだ】

三人の脳に今度は映像が見えた。

廃墟で見たあの映像。
歌う人々が囲んでいた女性の後ろには大きな樹がある。
その樹は彼―若かりし日の彼に違いない。

走馬灯のように流れていく画。
その、どのシーンにも必ず「彼」はいた。

彼は流れ行く時を、気の遠くなるほどの長い時間を見てきたのだ。

彼が生まれた時、周りにはひしめき合う仲間の樹たちがいた。
やがて彼らは朽ち、自分の一部となる。一本、一本と仲間たちは後ずさりをし、代わりに彼の周りには小さな草や花が埋まるようになった。

あたたかな日差しを浴びることになった彼の周りには昆虫だけでなく動物や人間も集まるようになる。

彼の生きた中で一番優しい瞬間。
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