愛のカタチ
残りのアップルティーを飲み干し、バルコニーへと立ち上がった。 


南向きのバルコニーからは、広大な太平洋が臨める。 

吸い込まれそうなコバルトブルーの海。


潮の香りとともに、ブォーンという汽笛を鳴らしながら往来する船。


『オーシャンビュー』を売りにしたこのマンションは、海はもちろん、自宅にいながらにして、花火大会が堪能できる。 



付き合ってまだ間もない頃――


花火大会に出掛けた私は、あまりの混雑ぶりに、ほとほと嫌気がさしていた。 

慣れない浴衣に下駄が、さらに追い討ちを駆けた。


そのとき、何気なく言った言葉―


『こんなところに住めたら最高だよね!毎年、リビングからお酒を片手にゆっくり眺められるし、誰にも邪魔されず花火を独占できるもんね……』 


拓也は、しっかりとその言葉を覚えていた。 




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