君を好きな理由
艶々白米。ホウレン草のお浸し。大根と揚げのお味噌汁。焼き鮭に、納豆。

めちゃめちゃ日本の朝御飯。

「休日の朝御飯は、白米にしてまして」

いい匂いの珈琲カップを置きながら、目の前に葛西さんが座る。

「別に文句はないけど、健康ね……」

「はるかさんは、いつもはパンですか?」

「朝は珈琲のみ」

「医者の不養生ですね」


すみませんね。


「それにしても朝からある意味で豪勢ね?」

「起きたら……まぁ、その……色々と元気になったので。とりあえず、何かしていた方がいいかと思いまして」

澄まして言っているけど、視線が彷徨った。


……そうね。

まだ30代の男の子。朝は“色々と元気”になるわよね。

しかも眠った女が近くにいて、よく頑張ったわね。

うん。でも、それを謝ったらいけないと思うから、聞き流す事にするわね。

「いただきます」

「あ。納豆が駄目なら、卵焼きくらいは焼きますよ」

「大丈夫。嫌いじゃないし……そうね。パクチーと大葉以外なら食べるわ」

「俺は鰹のたたきが無理です」

「ああ。あれは好き嫌い分かれるわよね」

そんなことを言いながら、美味しく朝御飯を食べた。


二日酔いでも無さそうだし。

普段通りの葛西さんだけれど、酔っぱらっても普段通りの葛西さんだったから侮れないし。

洗い物を手伝いながら首を傾げる。

「気分は悪くない?」

「それは平気です。酒は抜けてますよ」

「頑丈な肝臓ねー」

「ウコンも効いたんじゃないです? 今度は飲む前に飲みます」

「ある程度飲まないと酔えなくなるわよ。それだけ健康なら」

最後の小鉢を乾拭きして、食器棚に戻すと、じっと様子を眺められていた事に気がついた。


「なに?」

「味噌汁が口に合ったようで」

「うん。好きな味だった」

お出汁からして好きだったし、大根と揚げのお味噌汁は鉄板だわ。

「好きな女性を射止めるには、胃袋からと言いますから」

「何かが間違っているわ、葛西さん」

「ともかく。せっかくですのでデートしましょう」

「………………」

まだ覚えていたのか、葛西さん。


「いや。シャワー浴びれてないし」

「どうぞ。遠慮なさらず」

「どうしてあんたは、私が初めて上がった男の部屋でシャワー浴びれると思うの!」

「はるかさんは出来る人です」

「言葉として恐ろしく間違ってるからね!」

「なんなら脱がせます」

え。いや……それはどうなの?

「寝てる女性の衣服を脱がせるのはいけませんが、起きてる女性の衣服ならば喜んで脱がします」

「真面目な顔して言うことじゃない! だいたい、こんなしわくちゃな格好でどこにも行きたくない!」

「そんなことを言っていたら、この部屋から出られないじゃないですか」

「タクシーに乗れば家に帰れるわ!」

「では、ドライブでも……」

「くどい!」
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