君を好きな理由
そう言ったはずなのに。


「葛西さんってけっこう押しが強いわよね」


あのままでいたら本当に剥かれそうになって、しぶしぶデートを承諾した。

とりあえず葛西さんの運転する車に乗ってうちまで送ってもらい、身支度を調えてから、郊外にある商業施設の映画館に向かい、映画を見た。

映画はさほど有名作品ではなかったけれど、それなりに楽しめた。

フライドポテトを食べながら、葛西さんの視線が動く。

「はるかさんは思った以上に押しに弱い。と言うか、俺が押し弱いはずないでしょう」

そうそう。類友よね。
自分で言っておきながら、忘れやすいのよ。

磯村さんみたいに、全面的にわが道を突き進む感じだったり、山本さんみたいにじんわりいつのまにか罠にはめられるような感じだったり。

そんなだったら解りやすいのに。


とりあえず、映画館の後は近くのファーストフード店で、何となく買ったパンフレットを広げてみる。

「案外笑ってましたね」

微笑みながらの言葉に頷く。

「アクションコメディは案外好きみたい。あり得ないって所もあったけど」

「あー……明らかに人形だと解るシーンもありましたよね」

「あれはひどかったわ。あんなに手足がバラバラしてたら、明らかに人形ですって宣伝してるようなもんじゃないの」

「ああいう時のCGも、作るのは大変なんでしょうね」

「予算もあるかもね。昔、なんて映画だったか忘れたけれど、犯罪者の女性が逃げていて、車に撥ね飛ばされるシーンがあってね」

「ええ」

「撥ね飛ばされて、空高く三回転して、電線に引っ掛かって、真っ二つになったのには、子供ながらびっくりしたわ」

「…………」

なんとも言えない顔で珈琲を啜る葛西さんが、ゆっくりと首を傾げる。

「コメディ……ですか?」

「いえ。深夜帯にやるようなホラー」

「ホラーが好きなんです?」

「嫌いじゃないわね。すごーく昔のホラー映画が好きかも」

血がドバッとか、誰かが白目むくとか、医局時代から現実的にも起こっていたしね。

「ああ。今度はDVDでも借りて、うちで見ましょう」

「これから秘書課は株主総会で忙しいでしょ」

「そうですね。今年は主任ですが役職ついたので、あまりサボる訳にもいきませんか……」

「大変ね。頑張ってね」

「たまにサボりに行っても……?」

「医務室はサボりに来る場所ではありません」

「よく観月さんがお邪魔するでしょう?」


あれ。どうして知ってる。

明らかに仮病の時には、利用者名簿に記入すらしていないのに。

「パソコンの起動状況と、彼女の俺への固執ぶりから、大方そうだろうと思っていました」

「うわ。カマかけたわね?」

「はるかさんは、案外解りやすい時の方が多いです」

「悪かったわね」

「良いじゃないですか、ある意味で裏表がなくて」

いいことなのか、悪いことなのか。

私もいい年なんだけどなぁ。

だけどきっと、それだって解る人と解らない人がいるだろうと思うの。

人の事に気づける人って、実はたくさんいるようでいて、少ないよね。
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