君を好きな理由
……しばらく男の人とのなんやかんやは避けていたのに。

確かに今は、9時から18時までの安定した仕事だけど、忙しいのには変わらないし。

それに、私はただいま勉強に集中したいと言うか。
結構、男の人との付き合いが煩わしいと言うか。

それを、友達の前でお答えするのはどうかと思うし、だからって食事に行って期待させるのもどうかと……

しかも、私は自分でも酒癖悪いと思っているし。

「友達の恋人の友達と言う関係でよくない?」

「嫌です」

あんたは子供か!

いくつだ。いくつになったんだ、あんたは。

「……押してばかりが男じゃないでしょう」

「水瀬さん。押さないと放っておかれそうですから」

間違いなくね!

「一度つきあえばいいの?」

「一度では嫌です」

真面目な顔をして言われてもね。

「ねぇ。磯村さん。この人どうにかならない?」

「無理だな。だいたいこいつからちょっかい出す女は初めて見るし……真面目な男だぞ?」

真面目な男……か。

真面目な男は最良物件だわね。

そりゃ真面目すぎるのは困るけど、私みたいな妙齢の女性にとっては、とても重要な性質よ。

この先を考えたらねぇ。
もう29歳になるし、生娘でもないんだし。
選り好みしている場合じゃないのも知っている。

だけどねぇ。

サンドイッチを食べながら、磯村さんと華子を冷静に見ている葛西さんを眺めた。

まぁ、顔も花丸よね。

だけど、

「いきなりですけど葛西さん。お見合い話とか来てません?」

葛西さんは冷静に私を振り返り、これまた冷静に私を観察した。

「何故、そんな事を?」

ああ……
これはビンゴってやつだな。

だいたい30過ぎの社長令息。
お見合い話の“お”の字も無いわけがない。
男の人が所帯を持つって言うのは、一種の社会信用度のバロメーターになるから。

まぁ……うちの会社は同族会社では無いけれど、それに近いものがあるし。

私にもそのうちそんな話になるかな。

なるだろうな。

受けるか受けないかはともかく。

「何となくですねかね」

言いながらお茶を飲む。

そうね。
遊びならば手頃な相手。

秘書課の人間をまとめている葛西さんの役職は主任。
この年齢と、秘書課の役割から考えると出世株。

お金もルックスも将来も安泰。

でも……真面目な人では遊べないし、遊ぶつもりもないわ。
だったら突き放してしまえ。

そう思ったわけなんだけど。
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