君を好きな理由
「管理人が掃除してくれてますね。キッチンはそちら、トイレとバスはあちらです。はるかさんは二階の角部屋使ってください」

説明を受けてから、それぞれ荷物を運ぶ。


……あれは搬入と言うのが正解かも。

もともと管理人さんが、食材を大型冷蔵庫に用意してくれていたみたいだけど、葛西さんは葛西さんでクーラーボックス持参。

「そんなに材料買っても、私は料理できないわよ?」

「知ってます」

「…………」


無礼者だな。


そのままふて腐れて手伝いもせずにブラブラしていたら、大きな窓の向こう、テラスに背もたれのないベンチを見つけた。

そこに紅茶と本を持ち込むと、いきなりバーベキューの用意をし始めた葛西さんを眺めつつ……


そうよ。

ぼんやりしていたのよね。

それがどうして抱えられる事になったんだろ。


数ページ読み進んだのは文庫本。

旅行先で勉強に勤しむのも失礼。
そう思ったから、医学系の本は一冊だけ。
だからと言って、葛西さんも本を読むのが好きらしいから、当たり障りのない文庫本を数冊持ってきた。


赤々とした炭が見える。


葛西さんは軍手を外し、使っていたトングを立て掛けて、私の後ろにまわったと思ったらいきなり抱え上げられた。

抱えあげられて固まっている間に、葛西さんがベンチに座って、膝の間に下ろされて……

そのままお腹の辺りに手を置かれ、肩に顎を乗せられた。


えー……


「熱でもあるの?」

「まさか」

「火はいいの?」

「もう少し経たないと。丁度良い感じになりませんしねぇ」

「あ、そう……」

「読んでて良いですよ。勝手にくっついてますから」


それはどうだよ、お兄さん。


「………………」

「………………」

「もしかして、緊張してます?」


するに決まってるでしょうが!

さすがに私、後ろから抱き抱えられるようにされて、冷静に文章を読んでられないから!

こんなピッタリと(勝手に)くっつかれても困るから!


「……案外、可愛らしい」

「どういう意味よ」

「耳まで赤い。もしかすると、身体中赤そうですね」


冷静に言ってるんじゃないわよ!


なんなのあんたは、実は言葉攻めの人なのっ!?


あるかもしれない。

だって、私が葛西さんに口で勝ったのって一度だけじゃない?

結構前に、葛西さんの失言を思いきり怒った時くらい。

後は、口車に乗せられる事の方が……間違いなく多い。


「は、離れてよ!」

「解りました」

あっさり離れていくぬくもり、ほっとした瞬間、髪をかきあげられて耳の後ろに、

「ひゃ……っん」

キスされて、慌てて立ち上がって対峙する。

葛西さんは驚いたように目を丸くして、それからゆっくり指先で眼鏡を直すとニヤリと笑った。


「そこ、弱いんですね」

「よ、よよ弱くないわよ! び、びっくりしただけよ!」

「意地っ張りですねぇ」

肩を竦めると、何事もなかったかのように、カラカラとサッシを開けてコテージに入っていく。


「…………」


あの人、実はヤバイかも。
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